ヒップホップっておもしろい。サンプリングとは

ものすごく久しぶりに更新しました。今日はサンプリングについて記したいと思います。サンプリングはヒップホップをあまり聴かない人にとってピンとこないかもしれません。
ざっくりと表現すれば既存の曲の気に入ったフレーズを切り取ってそれを自分の曲の中で再生すること、それをもとに曲を作ること、です。
つまり、それまでのポップミュージックの、楽器を演奏して作曲するというプロセスと違い、極端な話人の曲をコピーしてビートに乗せれば曲が完成してしまうのです(大学生に馴染みの深い言葉に置き換えるならコピペです)。ヒップホップが「パクリ」の文化と言われるのはこのためです。
サンプリングの対象としてはギターやベースなどの楽器、歌、ビート、はたまた映画の音声まで、様々なものがあげられます。すでに録音されたものならばなんでもサンプリングの対象になりうるのです。

しかしながら、元の曲を作った当のミュージシャンにすればこれほどおもしろくないことはありません。自分の曲が勝手に使われてなおかつそれがヒットしたなら「泥棒!」という言葉のひとつでも浴びせたくなるでしょう。
70年代の終わりにヒップホップが誕生してから、サンプリングはほぼ無許可で行われていました。しかし、この新しい音楽フォーマットが80年代を通して市民権を獲得していくにつれて、原盤制作者たちは著作権侵害を主張し、訴訟が頻発しました。
現在ではサンプリングのライセンスを取るにはお金もレコード会社・アーティストの許可も必要になり、昔に比べれば大変厳しくなっています。

ここまで書くと、ヒップホップはパクリの音楽なのね、で終わってしまうかもしれませんが、この手法にはもちろん素晴らしい点もあります。まず、歴史に埋もれた曲たちを掘り出してスポットライトを当てるということです。80年代のヒップホップDJたちはこぞってマイナーな古いソウルやジャズのレコードからパーツを抜き出して曲にしていました。これにより、「忘れ去られた」曲たちが再び注目されるきっかけになったのです。
何より、既存の曲を切り貼りするという手法は無限の可能性を秘めていて、以前ならば考えられなかったジャンルを融合させることだってできるのです。
RUN-DMCというヒップホップグループがいます。彼らはエアロスミスの"Walk This Way"という曲のギターリフをサンプリングして大ヒットさせました(後にサンプリングではなく、正式にコラボレーションすることになります)。
この曲の大成功によって当時低迷していたエアロスミスリバイバルヒットし、第二の黄金期を迎えることになります。これこそがまさに「埋もれてしまった曲を掘り起こしてスポットライトを当て」、さらに「新しいジャンルを融合させる」という代表的な事例でしょう。

さて、先述したようにヒップホップの曲は既存の曲を切り貼りしてそれを組み合わせることにより構築されているパズルのようなものです。それでは、一つ例を挙げて分解してみましょう。
まずは前回(と言っても半年以上前ですが)の記事で紹介した、Aesop Rockの”Daylight”をお聴きください。

素晴らしい曲ですね。曲の冒頭から最後まで流れるメランコリックかつ印象的なキーボードのフレーズは有名なセッションギタリストであるEric Galeの”She Is My Lady”のイントロのサンプルです。

原曲の0〜10秒までがサンプリングされ、繰り返されていることが分かります(これをサンプリングループと言います)。
次に、この曲のミソである "Yes, yes y'all, you don’t stop, keep on till the break of dawn"というラップは90年代初頭に活躍したDigital Undergroundの” A Tribute to the Early Days”のサンプルです。11秒から始まります。お聴きください。

最後に、これまた印象的な笛の音はどこから来ているのでしょうか。正解はジャズミュージシャンであるTony Scottの和風なナンバー、"After the snow, the Fragrance”の3分46秒からのフレーズが断片的に使用されています。

この曲を作るには単に曲を切り貼りすればいいという問題ではありません。ある程度曲のイメージが頭にあって、それに合った曲を探して繋げるという想像力、構成力、膨大な音楽知識が要求される高度なテクニックなのです(時には有名な曲のサビを流すだけといった曲もあります。これは俗に「大ネタ使い」と呼ばれます)。
DJ ShadowというDJが96年に発表したデビューアルバム、”Endtroducing…..”はすべての曲がサンプリングによって構成されているという驚異的な作品です。いろいろな曲を組み合わせて全く違う音楽を作る…。これはパクリではなくもはや立派な才能でしょう。”Endtroducing…..”は90年代でも屈指の革新的なアルバムとして時代を代表する作品のひとつに数えられています。

長くなりましたが、サンプリングを理解することによって少しでもヒップホップに興味を持って頂けたら幸いです。ちなみに僕は気になったフレーズがあれば[Discover Music via Samples, Cover Songs and Remixes | WhoSampledwhosampled]というサイトで調べています。このサイトは誰の、どの曲の、どの部分をサンプルしたのかがリンク付きで紹介されているのですごく便利です。曲を自分で解体してみる、というプロセスはパズルのようで楽しいので関心があればぜひ。
最後に、ロックファンには楽しいクイズをひとつ。僕の大好きなBeastie Boysが89年に発表したPaul’s Boutique”はサンプリングの可能性を広げた作品としてジャンルを問わず評価されている傑作ですが、このアルバムの6曲目、”The Sounds Of Science”は主にビートルズの曲をサンプリングして作られています。イントロからそのまんまですが、全部で5曲が使われているようです。どこがどれか、楽しみながら聴いてみてください。
それではまた次回。