素晴らしきブレイクビーツの世界

サンプリングの道も、ブレイクビーツから。
以前サンプリングについての雑な記事を上げましたが今日はヒップホップの核とも言えるブレイクビーツについて書きたいと思います。
ブレイクビーツとはその名の通りビートを分解(ブレイク)して作ったものです(なんのこっちゃ)。
古いファンクやソウルの曲はイントロや曲の途中でドラムソロがあることが多く、これをサンプラーで抜き出して新しいパターンを作ったりループさせたものがヒップホップのビートになっているわけです。

その起源については諸説ありますがジャマイカからの移民であった偉大なDJクール・ハークが始めたものとする説が有力。
70年代に隆盛したブロックパーティーと呼ばれる街頭での音楽集会でDJがファンクやソウルのレコードをかけ、観客を踊らせるために曲の最も盛り上がるドラムやベースだけになる箇所(ブレイクダウン)を延々繋ぎ続けたことがヒップホップの直接のルーツで、その発祥からしてダンス・オリエンテッドな機能的な音楽でした。
さらにブレイクをバックにMCがボースティングと呼ばれる語りを入れたのがラップの始まりです。
元々はジャマイカでレゲエのレコーディング中にたまたま発見されたもので、レゲエとヒップホップは兄弟のようなものだと言われるのはこれが理由です。


DJクール・ハークのブロック・パーティーの様子

その歴史や美学についてはトリーシャ・ローズ著「ブラック・ノイズ」やジェフ・チャンの800ページにも渡る大著「ヒップホップ・ジェネレーション」に詳しいです。前者は学術論文レベル、後者は言わずもがなの分厚さで読むのに体力を使いますが読み物として非常におもしろいので関心のある人はぜひ読んでみてください。

ブラック・ノイズ

ブラック・ノイズ

ヒップホップ・ジェネレーション 「スタイル」で世界を変えた若者たちの物語

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さて、ヒップホップの歴史においてDJたちは古今東西のレコードの山から誰も聴いたことがないブレイクスをこぞって探してきたわけですが、その中にもやはり定番と呼ばれる、好んでサンプリングされるものもありました。
一例を挙げてみましょう。


Amen Brother / The Winstons(1969)

こちらの曲はThe Winstonsが1969年に発表した"Amen Brother"という曲で、1分26秒からの強烈なブレイクは恐らく歴史上最も有名な6秒間です。
オンライン・サンプリング・ディクショナリー「Whosampled」によるとなんと1000曲上もの曲にサンプリングされたようで、またそのドラムのリズムパターンは「アーメン・ブレイク」とも呼ばれウィキペディアで個別の項目が作られるほど、ヒップホップのみならずさまざまなジャンルに多大な影響を及ぼしたブレイクビーツなのです。

僕もヒップホップ好きの多分に漏れずファンクのレコードに登場するブレイクスを聴いて興奮するたちなのですが、つくづくヒップホップとは曲を構成するパーツに美意識を見出だすフェテシィズムの音楽なのだと思います。以前音楽編集ソフトを使ってドラムのループを作った時も(綺麗なワンループを作るのもシンプルに見えて結構難しいことが分かりました)「ああこのリズムパターン美しい、永遠に聴けるわー」と思っていました。
先日放送されたドラマ「最高の離婚スペシャルにおいて真木よう子が男女の恋愛観の差違に言及して「結局男の子はプラモデルが好きで、女の子はお人形が好きなのよ。」という迷台詞を吐いていましたがあながち間違いではないような気もします。ヒップホップ好きは男性が多いように女性にはいまいち理解できないポイントなんでしょうか。僕は女性ではないのでよく分かんないですが。

さてここからは極私的ブレイクビーツTOP5と題しまして僕がかっけーと思っているブレイクスを紹介します。

1.It's a New Day / Skull Snaps(1973)

0秒から。これも最も有名なブレイクスのひとつ、スカル・スナップスの1973年の曲です。ジャケを見て「ヘビメタ?」となりますが、いいえ、ヘビー・ファンクです。金属質なスネアとキック、ハイハットが絡み合う様は何度聴いてもたまりません。僕が一番好きなブレイクスです。
こちらを使った曲の例としては


読んで字のごとく、レペゼンブロンクスのデュオ、Bro-N-Xのアングラ・クラシックです。12インチ一枚のみしか出していないようでネットで検索しても日本語の情報はほぼ皆無でした。恐らくレコード屋で奇跡的に出会うことがあっても目玉が飛び出るような価格でしょう。いずれにせよメロウな上ネタとハードコアなラップがビートによくマッチしています。

2.Shack Up / Banbarra(1975)

1分44秒から。猛烈にフリーキーなブレイクスです。ちなみにShackとは英語で「小屋」という意味でそれをUp(=建てる)する=同棲しようぜ!みたいなニュアンスのようです。あくまで憶測ですが。とにかくシンプルなリフが病みつきでものすごく踊れる曲ですね。「ハァ〜」のコーラスも耳にこびり付いて離れません。
さてこのブレイクス、あまりにも明快なダンス・ビート過ぎて使いづらいのか意外にもヒップホップの曲にはあまりサンプルされずダンス系の曲に使われているようです。
しかし、数は少ないですがヒップホップの曲にもしっかりとサンプルされています。


業界随一の奇才もとい変態、クール・キースが変名プロジェクトDR OCTAGONとして発表した"I'm Destructive"がそうです。下手すればダンスになりすぎるビートを上手く乗りこなすキースのラップも然りですがハードなギターリフというロックの要素を合わせながらそれをしっかりとヒップホップに落とし込むダン・ジ・オートメーターことダン・ナカムラ氏の才覚には脱帽するばかりです。

3.(Sittin' On)the Dock of the Bay / Peggy Lee(1969)

0秒から。ペギー・リーと言えばしっとりとした曲で有名な歌手で、あまりサンプルされるイメージはありませんが、このオーティス・レディングのカバー曲ではなぜか恐ろしいほどのブレイクの応酬が繰り広げられます。かっこいいですね〜


言わずもがな、ビースティズの件の「チェッ、チェッ、チェッ、チェッ、チェケラ!」の元ネタです。どうやらこの曲が初出っぽい。よく見つけてきたな…。

4.Supermarket blues / Eugene McDaniels(1971)

0秒から。ユージン・マクダニエルズの大名盤、"Headless Heroes of the Apocalypse"の中でも僕が特に好きな曲の一つです。サンプリング目線から見ると冒頭のブレイクスはやや短すぎるのか、確認した内では一回も使われたことがないようですが、全編ファンキーなビートに満ちた名曲です。音楽編集ソフトで遊んでいた時も真っ先にこの曲をサンプルしました(ちゃんと立派なブレイクビーツが出来上がりました)。

5.Apache / Incredible Bongo Band

0秒、2分23秒から。僕がこの世で最もテンションが上がると思っているかつ定番を通り越したような曲です。やいコラ踊れやと言わんばかりのずっしりしたビートに絡むボンゴの軽快な音。B-BOYの国家と言っても過言ではないでしょう(メロディもなんか国家ぽい)。この曲を知らないでヒップホップ好きと言っている人はたぶんモグリです。たぶんそんな人存在しないでしょうけれど…
このブレイクスを使った曲はこちら。


クール・G・ラップの息もつかせぬラップが強烈な一曲です。

サンプル元を探すのは自分の音楽知識に直結する以上にすごく楽しいです。ファンクって素晴らしい。
それではまた次回。