漂っていける、大丈夫だ。
モデスト・マウスというバンドが大好きです。
何が好きなのか、と聞かれると全部としか答えようがないのですが、強いて言うならその「空気感」でしょうか。うまく説明できないのですが、彼らの音楽は寒い極北の草原に一人ぼっちでいる様を想起させます。この乾いた「真冬の音」が年中荒んでいる僕の心にマッティングしたのでした。
そんな彼らがブレイクスル―したのは2004年に発表した"Float On"という曲がきっかけ。この曲がビルボードのモダン・ロック・チャートの一位を獲得してしまうというインディーロック・リスナーにとってはドシュールなことが起き、結果的にアルバムがアメリカで100万枚売れるというさらにあり得ない事態を引き起こすことになります。それは日本で言うなればボアダムスがオリコン1位になって松坂桃李主演ドラマ主題歌になる、みたいな感じでしょうか(すいません適当言いました、でもシュールさとしてはそれくらいのものだと思います)。
さらには人気ラッパー、ルーペ・フィアスコがサビをモロ使い(というか替え歌した)ことによりブラザーたちにもそのキャッチーなメロディが浸透します。
さて、この曲は基本的に4コードのリフをずっと弾いているだけというブロックさんお家芸の循環構造なのですが特筆すべきは相変わらずの唾吐き散らかしヤケクソ唱法を採用していながらも非常にポップということ、そして明確に前向きなメッセージを持った曲であることでしょう。モデスト・マウスと言えば奇妙にメロディアスだけれど決してポップではないし、歌詞もひねくれたものばかりだったはず。しかし、この曲を以てかつて「人間でいることがつらすぎる」と歌った男が「俺たちは漂っていけるから、大丈夫だって」と歌うまでになったのです。まるで更正した不良少年みたいだな。
さて、モデスト・マウスは2013年、アメリカを代表する野外フェスのひとつコーチェラにパッション・ピットとヤー・ヤー・ヤーズに挟まれるという謎の順番で出演しました。1曲目はインディー時代の代表曲にしてド名曲、"Dramamine"と順調なスタートだったのですがレッチリさえもダダ滑る客のノリの悪さにビビったのか、はたまたモテを狙いに行ったのかは定かではありませんが彼らは最後にフロート・オンをやってしまったのです。
正直動画見てて「うわあ…」って思いました。さらによからぬことには今まで静止状態だった客が急にノリ始め、合唱し出すという寒いことになってしまったのです。まるでフェスじゃねえか。フェスだけど。しかも客の知識としては「なんか知ってる曲」程度なので「フロートン!フロートン!」が繰り返されるだけの似非シンガロングによる似非一体感という最悪の展開。個人的には「最後知ってる曲やってよかったねー」という感じで終わらせてしまったことに憤りを覚えました。遺憾よ、遺憾!!
"Tiny Cities〜"を10分ぐらいやって秘技「ギターをマイクにする」を繰り出して客をドン引かせればよかったのに(動画参照)。昔のブロックさんならそうしてるよ、絶対。
先日「アルバム作るから夏のツアーは全部キャンセルすっわ。ごめんなー」と言って顰蹙を買っていましたが、来年リリース予定の新作と7年ぶりの来日に期待したいです。ではまた次回。
追記:個人的な希望なんですが、とりあえず今いるメンバーをほとんど首にしてオリジナル・ラインナップに戻してほしいです。そもそもドラマーが二人いる必要性も疑問だし、天才ベーシスト、エリック・ジュディの地を這うようなベースラインこそ実は最もモデストをモデストをもたらしめてきた存在だと思っています。セカンド・ギタリストは正式メンバーになったみたいだけどコーラスの声が全く聞こえないし。グランダディに帰りなさい。ましてやあのマルチ・プレーヤー的立ち位置のおっさんは絶対にいらない。いつもラッパ吹いてるけどいつまでたっても音出てねえぞ。