そろそろ梅雨

NAVERまとめって便利ですね。「本田翼」ですとか「石原さとみ」と入力しただけで幸せになれるのでよく使います。
画像だけではなく、特に音楽まとめなんか、すごくいい記事があったりするので参考になります。
さて、以前おもしろいミュージック・ビデオを見たいなーと思って検索をかけたことがあるのですが、なかなかしっくりくるものがなくて苦い思いをしました。なぜでしょう。音楽の視聴とは違い視覚的ウエイトの比重が高いからかもしれません。

80年代にMTVが設立されるまではミュージック・ビデオ(以下MV)は一般的な存在ではありませんでした。
もちろん、ビートルズのような先駆けは存在したわけですが、商業的にそれが利用されるまではしばらくの時間を必要としました。

現在でも耳にする機会の多いバグルスの「ラジオ・スターの悲劇」はMTVが放送を開始する2年前の1979年に発表された曲ですが、この曲のビデオがMVのプロトタイプであると認識されています。
歌詞の、テレビの台頭によりラジオで活躍していた歌手がその座を奪われる、というストーリーの通り、MVの登場がレコードを中心とした当時の音楽視聴環境に与えた影響は凄まじいものだったのではないかと推察することができます。
メディア論的観点から見て映像が持つ視覚効果というもののインパクトについては今更述べることではないと思いますが、「音楽」でも「映像」でもない「ミュージック・ビデオ」という新しいジャンルは音楽の歴史において非常にエポック・メイキングな現象だったことは確かです。それ以降、30年という短い歴史の中でさまざまな試行錯誤が繰り返され、さまざまな名作が産まれてきました。
付記:以前神聖かまってちゃんのの子が「音楽があって、ビデオがあって、歌詞が字幕でついてて、そこで初めて曲だ」という風なことを述べていて、とても新鮮な感覚を覚えました(その後メジャー・デビューしたのを見て結局CDが売りたかったんかよ!ととてもがっかりした記憶がありますが)。

さて、話をもとに戻しましょう。なぜ僕はNAVERまとめでMVを検索して納得できなかったのか。それは単純に「好み」の問題が大きいのですがそれを突き詰めていくと視覚的なおもしろさ、工夫がないとおもしろいと思わない、という結論に達しました。そしてここにMV最大の問題があると思います。
乱暴に言ってしまうと適当な映像を撮影して流しても被写体や曲がかっこよければなんとなくビデオもかっこよく見えてしまう、ということです。
つまり、ボブ・ディランが歌っている様をダラ撮りして「MVでーす」と言ってもボブ・ディラン自体がかっこいいので結果的にかっこいいことになってしまうのです。「なんとなーく」な映像でもそれらしく見えてしまう曖昧さがMV最大の課題でしょう。
もちろんそれはそれでいいですし、特におもしろいアイデアがなくても好きなMVはたくさんありますが、今回のテーマにはそぐわないので割愛します。

前置きが長くなりました。今日は僕が本当におもしろいと思ったMVを紹介したいと思います。斬新なアイデア、あっと驚く演出など、「被写体ありき」ではない一個の映像作品として楽しめるものを用意しました。早速参りましょう。


a-ha - Take On Me

クラシック中のクラシック、a-haの大ヒット曲ですね。YouTubeで見たらなぜかすごくカクカクしているのが残念ですが演出、構成、ストーリーどれをとっても非の打ちどころのない傑作です。


Lodger - I love Death

前回紹介したThe Lodgerとはまた別の、TheがないLodgerというフィンランドのバンド。一見してかわいらしい棒人間のキャラクターとは裏腹に曲のタイトルもさることながらその絶望的なストーリーに、最初に見た時死にたくなったことを思い出します。人生のなんたるか、でしょうか。テレビでCMの合間に流せば全国で自殺者増加請け合いです。


Goodshirt - Sophie

この作品は今まで見た中でトップクラスにおもしろいビデオです。ニュージランドのマイナーインディ・バンド。見た感じ一発撮りで、時間内に収まるよう構成を練りに練ったことが素人目にもよく分かります。それにしてもアイデアが秀逸ですし、音楽をヘッドホンで聴いている時って本当に周囲の音が遮断されるのであり得なくはない、というぎりぎりのリアリティがこの作品をスリリングなものにしていると思います。キッチンシンクってあんなに簡単に取り外せるものなんですね…。


The Pharcyde - Drop

最後。少し長く書きます。The Pharcydeという、僕の大好きなラップ・グループのMVです。これは僕が今まで見た中でベスト、それぐらいの完成度です。監督は映画監督としても名高い天才スパイク・ジョーンズ(僕の好きなMVはだいたい彼が監督していると言っても過言ではない、それぐらい才能のある人です)。
これは恐らく「逆再生もの」の先鞭をつけた作品ですが、見て分かるように撮影はラストシーンから開始されそれを逆再生させたといういたってシンプルな構造です。
しかし、一聴した際の視覚的な斬新さ、例えば服を着るシーンで空からシャツが飛んできているように見えるですとか、雑踏の中でメンバー以外全員後ろ歩きをしているように見えるといった、なんとも不思議な効果が発揮されています。


メイキング映像もありました。併せて見るとおもしろいです。

ちなみにスノッブなアート系インディリスナー御用達の音楽レビューサイト、ピッチフォーク・メディアが行った90年代のMVトップ50The Top 50 Music Videos of the 1990s | Pitchforkにも選ばれています。その中で、「コールドプレイが『ザ・サイエンティスト』でこの手法をパクりお涙頂戴の退屈な作品に変えてしまった」と書かれているように、逆再生というジャンルは「ドロップ」以降猛烈な勢いで模倣・消費され、ミュージック・ビデオ・カルチャーの文脈の中に付置されました(ちなみに前述のピッチフォークのリストの一位はエイフェックス・ツインの「カム・トゥ・ダディ」が選ばれています。そりゃないよぉ…)

さらに追記しておくと、最近Perfumeが発売した新曲のMVでも逆再生が用いられていました。これは逆再生をした時に普通にダンスを踊っているように見せるため、逆の振り付けでダンスするというものですが、実際に見ると逆再生をした意味がまったく感じられない、効果を活かしきれていないとても退屈なものでした。


だいたい逆再生してるって言われなきゃわかんねーよ!

そういえば前述のGoodshirtも逆再生ネタで作っていました。これもおもしろいです。


Goodshirt - Blowing Dirt


以上です。もっとおもしろいMVがあれば是非教えてほしいですねー。それではまた次回。